娘の修学旅行用にパスポートを取ることになり、私は市役所で戸籍謄本を発行した。
窓口で受け取った紙を何気なく開いた瞬間、指先が冷たくなった。
夫の欄が、ない。
代わりに目に入ったのは、信じられない一文だった。
「三年前、協議離婚」
私はしばらく、その場から動けなかった。
三年前といえば、私が肺炎で入院していた時期だ。家のことも、娘のことも、すべて夫の浩二に任せていた。
退院した日、彼は優しい顔で「無理するな」と言ってくれた。
その夫と、私は戸籍上すでに他人になっていたのだ。
震える手でLINEを送った。
「戸籍謄本を取ったら、三年前に離婚したことになってる。どういうこと?」
既読はすぐについた。
だが返事は来ない。
十分後、ようやく短い文字が届いた。
「今さら騒ぐな」
その一文で、私の中の不安は怒りに変わった。
「私は離婚届に署名していない」
送信すると、浩二から電話が鳴った。出ると、彼は低い声で言った。
「お前が忘れてるだけだ。入院中に全部説明した」
嘘だった。
私は忘れていない。あの時、意識ははっきりしていた。離婚の話など一度も出ていない。
翌日、市役所で提出された離婚届の写しを確認した。
そこには私の名前があった。けれど筆跡は明らかに違う。証人欄には、義母と浩二の弟の名前。
胸の奥が、静かに崩れた。
夜、浩二を問い詰めた。
「三年前、私が入院している間に、勝手に離婚届を出したのね」
浩二は最初こそ黙っていたが、やがて開き直ったように笑った。
「お前のためでもあったんだ。俺の借金に巻き込みたくなかった」
だが、その言葉もすぐに嘘だと分かった。
彼のスマホに映った通知。
「奥さんには、まだバレてない?」
相手は、同じ職場の女性だった。
浩二は三年前から彼女と暮らす準備をしていた。私を戸籍から外し、家の名義や保険金の受取人を少しずつ変えていたのだ。
私は静かに録音を止めた。
「全部、聞いたわ」
浩二の顔色が一瞬で変わった。
私は泣かなかった。叫びもしなかった。
ただ、戸籍謄本と離婚届の写し、そして録音データを封筒に入れた。
三年前に終わらされたはずの私の結婚は、その夜、本当の意味で終わった。
引用元:https://www.youtube.com/watch?v=sV2A7pUmYxM&t=6s,記事の削除・修正依頼などのご相談は、下記のメールアドレスまでお気軽にお問い合わせください。[email protected]