娘が結婚して半年ほど経った頃だった。連絡は途切れ途切れで、こちらから電話をしても「忙しい」「また今度ね」と短い返事が続く。声の張りも弱く、私は胸騒ぎを拭えなかった。無理に踏み込むのは良くないと自分に言い聞かせてきたが、母親の勘は黙ってくれない。
私は迷った末に、娘の家を訪ねることにした。事前に「近くまで来たから」とメッセージを送り、返事を待たずに電車とバスを乗り継いだ。
真夏の午後、日差しは容赦なく、アスファルトが白く揺れていた。到着した住宅街は静かで、娘が住むという家は立派な二階建てだった。門扉も庭も整っていて、外から見れば何の問題もない。
インターホンを押しても応答がない。もう一度押して、少し待った。すると、家の横手の細い通路から、娘が慌てたように出てきた。頬がこけ、髪はまとめきれていない。何より、目の下の影が濃い。私は胸が締めつけられた。
「来るなら言ってよ……」
娘はそう言いながら、家の中へ招き入れる気配がない。私は玄関の方へ目を向けたが、娘は視線を逸らした。
「中、入っていい?」
私がそう言った瞬間、娘の肩がぴくりと跳ねた。
「……だめ。家族以外は家に入るなって……言われてるの」
理解が追いつかなかった。「家族以外?」私は娘の顔を覗き込む。娘は唇を噛み、声を落とした。
「お義母さんがね。うちの“家族”じゃない人は玄関をまたぐなって。だから……」
娘は言い切れず、視線を庭の奥へ向けた。私もその方向を追う。
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