玄関を開けた瞬間、私は違和感を覚えました。息子夫婦の家は新築で、外観も内装も整っている。それなのに、空気だけが妙に重い。生活の温度が消えたような静けさでした。
「お邪魔しますね」
返事はない。リビングへ入ると、カーテンは閉め切られ、昼なのに薄暗い。私は胸騒ぎを押さえながら廊下を進み、奥の部屋の前で足が止まりました。かすかな物音。
床を引きずるような、頼りない音。
ドアを開けた瞬間、言葉が凍りました。
六歳の孫が、床に座り込んでいたのです。小さな手首に金属の輪。そこから短い鎖が伸び、家具の脚に結ばれていました。目は乾いて、唇はひび割れている。私を見ると、必死に声を絞り出しました。
「おばあちゃん……お水ちょうだい……。三日も飲んでない……」
私は頭の中が真っ白になりました。怒りも恐怖も、その前に「今すぐ助けなければ」という本能が身体を動かした。台所へ走り、コップに水を注ぐ。手が震えて水がこぼれる。戻ると孫は泣きもせず、ただ唇を震わせていました。
「ゆっくり、ゆっくりね」
一気に飲ませてはいけない。私はそう自分に言い聞かせ、少しずつ口をつけさせました。
孫の喉が、小さく鳴った。生きている。生きているのに、こんな扱いを受けている。
その瞬間、背後で床が軋みました。
息子の妻が立っていたのです。顔色は悪く、目だけが尖っている。私はすぐに察しました。この家で何が起きているのかを、彼女は「日常」として隠している。
「……何してるんですか」
冷たい声でした。私は感情を抑え、低く答えました。
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