昼下がりの家は、妙に音が少なかった。洗濯機の回転音も止まり、時計の針だけが一定の間隔で鳴っている。私は台所で湯を沸かしながら、義実家の独特の匂いを吸い込んだ。古い畳と線香と、湿った木の匂い。ここに来るたび、体の奥が無意識に硬くなる。
義母は買い物に出たと言っていた。夫は仕事。義父だけが居間で新聞をめくっているはずだった。
私はさっさと家事を終え、早めに帰ろうと思っていた。なのに、背後から急に腕を掴まれた。
「ちょっと来い」
声が低く、命令口調だった。私は反射で腕を引いたが、義父の指は食い込むように強い。次の瞬間、引きずられるように廊下へ連れていかれた。
「やめてください、何するんですか」
私が声を上げると、義父は顔をしかめた。
「静かにしろ。大げさなんだよ」
そして、トイレの扉が乱暴に開けられた。狭い空間に押し込まれ、背中が壁に当たる。逃げ道は塞がれ、義父の体がこちらを圧してくる。私は全身が冷たくなるのを感じた。理解するより先に、本能が危険を叫ぶ。
「やめて! 触らないで!」
私は必死に手を突き出し、体を捻って逃れようとした。だが義父は腕を掴み、力で押さえつける。爪が皮膚に食い込み、息が詰まった。
時間の感覚が歪む。胸が痛いほど鼓動し、耳鳴りがする。叫べばいい。助けを呼べばいい。そう思うのに、声が喉で凍りつく。声を出した瞬間に何が起きるか、頭が勝手に最悪を並べてしまう。
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