在宅ワークの朝は静かだ。パソコンの起動音と、湯気の立つコーヒーの香り。私はリビングの隅に小さな作業机を置き、淡々と案件を回していた。年収は一千万円。けれど義実家では、それを口にしたことがない。
言えば空気が変わる。夫の肩身が狭くなる。義両親に気を遣わせる。そう思って、私は“家にいる嫁”として振る舞ってきた。義実家の支えも、目立たない形でやってきた。
固定資産税の補填。突然の修繕費。義父の通院費。義母の入れ歯の作り直し。全部、私の名義の口座から静かに出ていく。
そのことを、義姉だけは知らなかった。
ある日、義姉が突然やってきて、玄関で靴を脱ぐなり言った。
「ねぇ、あんたさ。いつまで居座るの?」
私はキッチンで手を止めた。
「……どういう意味ですか」
義姉はリビングの作業机を見て、鼻で笑った。
「どうせパソコンいじってるだけでしょ。ニートがいつまでも居座るな!出て行け!」
義母が「まぁまぁ」と口を挟もうとしたが、義姉は止まらない。
「親の家に寄生して、いい身分だよね。ね、母さん?こういう人は追い出したほうがいいって」
義父は視線を落とし、夫は気まずそうに黙る。
私はその場で怒鳴り返すこともできた。通帳を見せて「誰が支えてると思ってるの」と言うこともできた。けれど、私は静かに息を吸った。
争えば、義両親が傷つく。夫も傷つく。何より、私はもう疲れていた。ここで“理解してもらう努力”をするほど、この家に執着していない。
私は穏やかに言った。
「はい……わかりました。出て行きます」
義姉の口元が、勝ったという形に歪んだ。
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