親戚の集まりは、義実家の座敷で開かれていた。盆の上の煮物、刺身、寿司。笑い声が立つたびに、湯飲みの中の茶葉が揺れる。
私はいつものように台所と座敷を行き来し、皿を下げ、追加の箸を配り、場が滞らないように動いていた。義母は上座で腕を組み、「嫁なんだから当然」とでも言いたげに顎を上げている。私が水を注ぐたび、ため息をついて見せるのもお決まりだ。
そんな中、叔母が私を手招きした。義母の親戚で、比較的まともだと聞いていた人だ。
「嫁ちゃんさぁ……あの意地悪なお母さんに、よく我慢できるわね」
声は小さかったが、近くの親戚の耳には届いたらしい。数人が、気まずそうに目を泳がせる。義母は聞こえていないふりをしつつ、口角だけを上げていた。
私はにっこり笑って、いつもの“角の立たない返事”を返す準備をした……はずだった。
でも、その日だけは違った。
私は湯飲みを置き、叔母に向き直って、柔らかい声のまま言った。
「本当に平気なんです〜。だって私は――」
一瞬、座敷の空気がふっと軽くなった。皆が「ほらね、嫁は強いわ」みたいな安心の顔をする。義母も勝ち誇ったように鼻で笑う。
私は、そのまま続けた。
「だって私は、義母さんの“証拠”を集めてる最中なので」
……箸が止まった。咀嚼の音が消えた。誰かの湯飲みが畳に触れて、乾いた音がした。
叔母の目が見開かれる。
「え……?」
「毎回の暴言、指示、脅し、全部。日時と内容をメモして、LINEもスクショして、必要なものは録音もしてます。
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