それは、あるボランティアが東日本大震災の炊き出しで目撃した、壮絶な光景だった。
瓦礫と化した街。絶え間なく続く余震。地獄のような光景の中、被災者のために黙々と食事を配る、一人の若い自衛隊員の姿があった。しかし、彼の表情は苦痛に歪み、その目からは大粒の涙がとめどなく流れていた。
突然、彼は天を仰ぎ、叫んだ。
「俺だって家族が見つからないんだよ!俺だってこんなところにはいたくない!」
その場にいた誰もが、息をのんだ。彼もまた、この未曾有の災害で家族の安否すら分からない、一人の被災者だったのだ。
自分の家族を捜しに行きたい。その想いを押し殺し、彼は任務を遂行していた。しかし、一部の被災者から浴びせられた心無い暴言が、彼の心の最後の砦を崩壊させた。
駆けつけた他の隊員たちが、彼を必死に止めようとする。しかし、その隊員たちの目にも、そして彼を叱責する上官の目にも、同じ涙が光っていた。彼らもまた、帰りたいと願う家族の元へ帰れず、国民のために、ただひたすらに救助活動を続けるしかなかったのだ。
これは、メディアが報じることのなかった、英雄たちのもう一つの物語。自らも被災者でありながら、個人の悲しみを乗り越え、国民の命を救い続けた自衛隊員たちの、知られざる魂の叫びである。