5万人に1人。その数字は、石田祐貴さんが生まれながらにして背負った運命の重さだった。「トリーチャーコリンズ症候群」。顔の骨が十分に発達しないこの難病は、彼から「普通」の見た目を奪った。
物心ついた頃から、彼の人生は「見た目」との戦いだった。小学校の教室では「宇宙人」「変な顔」という心ない言葉がナイフのように突き刺さり、街を歩けば好奇と驚きの視線が容赦なく彼を射抜く。
10回以上にも及ぶ手術の痛みは、彼の身体だけでなく、心にも深い傷跡を残していった。
しかし、暗闇の中でうずくまる彼の背中を、たった一人の人物が、その温かくも力強い言葉で支え続けた。母だった。

「私は、あなたがこの状態で生まれて良かったと思っている。それが、あなただから」
その言葉は、呪いのように彼を縛り付けていた「見た目」を、世界でたった一つの「個性」へと変える魔法だった。その日を境に、石田さんの反撃が始まる。
彼は、変えられない「見た目」で判断する世界を、変えられる「行動」で見返すことを誓った。勉強に打ち込み、部活に汗を流し、全国大会の舞台にも立った。
恋もした。一つ一つの成功体験が、彼に自信と、自分を愛する強さを与えていった。
大学へ進学した彼は、やがて新たな使命を見出す。かつて自分を苦しめた「好奇の視線」から逃げるのではなく、自らその視線の中に飛び込み、それを「理解への視線」に変えること。彼は講演活動を始め、自身の経験を赤裸々に語り始めた。
「見た目は変えられない。でも、自分の行動を変えることで、周りの見る目は変えることができる」
彼の言葉は、同じ悩みを抱える人々の心を照らし、そして、「普通」とは何かという根源的な問いを、社会に静かに、しかし力強く投げかけた。
石田祐貴。彼は、神様から与えられた過酷な運命を嘆く代わりに、それを自らの武器に変えた。その生き様は、見た目という名の壁に苦しむ全ての人々にとって、希望の光そのものなのである。