妻の様子に違和感を覚え始めたのは、ほんの些細な変化からだった。
スマホを手放さなくなったこと。以前は無頓着だった身だしなみに急に気を使い始めたこと。私が仕事の予定を話すと、なぜか妙に細かく確認してくること。最初は気のせいかもしれないと思っていた。夫婦なのだから、疑うより信じるべきだと、自分に言い聞かせてもいた。だが、日を追うごとに違和感は確信へと変わっていった。
決定的だったのは、妻が「女友達と温泉に行ってくる」と言って、嬉しそうに旅行の準備をしていた日だった。普段なら見せないような華やかな下着を新調し、鏡の前で何度も髪型を整える姿を見た時、私はもう誤魔化せないと悟った。女友達との旅行にしては、不自然なほど浮き立っていたのだ。
私は表面上は何も気づいていないふりをした。妻を問い詰めることもしなかった。感情のままぶつかっても、どうせ言い逃れされるだけだと分かっていたからだ。その代わり、私は静かに事実を集めた。妻のスマホに表示された一瞬の通知、クレジットカードの利用履歴、出発前の不自然なメッセージのやり取り。慎重に確認を重ねた結果、相手の男の存在はすぐに浮かび上がった。
妻は不倫相手と旅行へ出かけるつもりだった。
しかも、その相手は独身ではなかった。勤務先やおおよその身元も見えてきた時、私は怒りよりも先に、呆れを覚えた。そこまで浅はかな関係のために、今までの結婚生活を平然と壊そうとしていたのかと思うと、胸の内が冷え切っていった。悲しみは確かにあった。だが、それ以上に、ここから先は感情ではなく段取りだと頭が切り替わっていった。
記事はまだ終了していません。次のページをクリックしてください