夫の鞄にそれを見つけたのは、ほんの偶然だった。
出張の支度をしていた夫が慌ただしく家を出た後、玄関先に書類を入れ忘れていることに気づき、私はいつものように鞄の中を確認した。仕事関係の資料の下に、茶封筒が一つ。最初は会社の重要書類かと思った。だが、何気なく中身を見た瞬間、私はその場で凍りついた。
そこに入っていたのは、見知らぬ女と幼い子ども、そして夫が並んで写る写真だった。
しかも一枚や二枚ではない。公園らしき場所で三人が笑い合うもの、子どもを抱き上げる夫、女が夫の腕に手を添えているもの。どう見ても、ただの知人ではなかった。家族のような距離感。私の知らない場所で、私の知らない時間を過ごしていた証拠が、そこに無造作に収められていた。
そして、封筒の底にはもう一枚、さらに残酷なものが入っていた。
記入済みの離婚届だった。
夫の署名も捺印も済んでいる。あとは私の欄を埋めれば提出できる状態。まるで、私との結婚を終わらせる準備を、水面下で静かに整えていたかのようだった。
その瞬間、怒りより先に胸に広がったのは、言いようのない冷たさだった。ああ、この人はもう、とっくに私を裏切っていたのだと、感情が妙に静まり返っていくのを感じた。
泣き崩れることはなかった。取り乱すこともなかった。
その代わり、私はひどく冷静だった。
夫は三日間の出張に出ていた。
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