双子を産んだ直後の病室は、静かなのに息が詰まるほど忙しい。赤ん坊の小さな泣き声、点滴の機械音、助産師さんの足音。私はまだ身体が熱く、頭はぼんやりしていた。それでも、ベビーベッドに並んだ二つの小さな顔を見るだけで「生きてる」と思えた。
そこへ夫が来た。花束でもなく、労いの言葉でもなく、封筒を片手に。
「おつかれ。……これ」
封筒から出てきたのは、離婚届だった。
夫は病室の椅子にふんぞり返り、平然と言った。
「離婚されて困るなら言うこと聞け!」
一瞬、意味が追いつかなかった。産んだばかりの私に、離婚届。しかも脅し。夫の目は妙に冴えていて、そこに愛情の欠片もなかった。私は喉の奥が冷たくなった。
「……どうして、今?」
夫は鼻で笑った。
「お前さ、最近うるさいんだよ。俺のこと疑ったり、金のこと聞いたり。子どもも増えたし、俺の自由がなくなるだろ? だから先に釘刺しとく。これ出されたくなかったら、大人しくしろ」
“自由”。
その言葉に、私は妙に納得した。夫は家族を守りたいのではない。家族を使って、自分の都合を守りたいだけだ。
私は静かに息を吸った。怒りが来るはずなのに、来ない。代わりに、頭の中が驚くほど澄んでいく。点と点が一本の線になっていく感覚だった。
・帰りが遅い日が増えた
・スマホを伏せるようになった
・生活費の話をすると不機嫌になる
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