仕事が予定より早く終わって、私は少しだけ気分が軽かった。たまには寄り道せずに真っ直ぐ帰って、晩ごはんでも作ろう。そう思ってマンションの駐車場に入った瞬間、気分は一気に冷えた。
――私の区画に、見知らぬ車が停まっている。
番号は違う。駐車許可証もない。何より、私の契約区画だ。私は一度深呼吸して、管理会社に連絡する準備をしつつ、車の周りを確認した。
すると、近くの部屋の玄関が開いて、30代くらいの女性が出てきた。上品そうな部屋着、手にはスリッパ。いかにも「この建物の住人です」という顔。
「すみません。ここ、私の駐車スペースなんですけど」
私が丁寧に言うと、女性は悪びれもせず肩をすくめた。
「空いてる時だけ生徒に使わせて何が悪いの?」
「……は?」
思わず声が抜けた。空いてる時だけ? ここは“空き”じゃない。私の契約だ。
女性は平然と続けた。
「私、自宅で教室やってるんです。生徒さんが車で来るから。あなた、いつも帰り遅いじゃない? だから使ってただけ。
細かいこと言わないで」
細かい? 私は一瞬、言葉を探した。ここで怒鳴れば負ける。話が通じない相手には、感情を渡したら終わりだ。私はゆっくりと確認した。
「つまり、私に無断で、あなたの生徒さんを私の区画に停めてたんですね」
「そう。だって空いてたし」
私は、その瞬間に決めた。これは“お願い”で解決する話じゃない。
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