親族が十三人も集まった新居の披露の日。玄関には祝いの花、リビングには豪華なオードブル。皆が「立派だね」「広いね」と笑う中、私は台所で湯気の立つ皿を運びながら、胸の奥がじわじわ冷えていくのを感じていました。
義母が、わざと声を張り上げたのは乾杯の直後でした。
「それにしても羨ましいわぁ。専業主婦でも、息子の稼ぎでこんな新居に住めるんですものねぇ」
親族の笑いが起きる。軽い冗談、という体裁。けれど視線は私の手元やエプロンへ集まり、私の存在だけが“格付け”されていくのが分かりました。
夫は、その流れに乗るようにグラスを揺らして笑いました。
「俺、年収一千万だからな。感謝しろよなw」
その瞬間、私の耳の奥で何かが切れました。怒鳴り声でも、泣き声でもない。もっと静かで、取り返しのつかない音です。
私は皿をテーブルに置き、ナプキンで指先を拭いてから、ゆっくりと夫の顔を見ました。義母ではありません。夫です。私が結婚した相手。私の人生のパートナーになるはずだった人。
「……そう。年収一千万」
私は頷き、穏やかに笑いました。親族たちは安心したのか、「ほら、奥さんも分かってるじゃない」といった空気になりかける。
義母は勝ち誇った目をしていました。
だからこそ、私はその空気の上に、はっきり言葉を置きました。
「じゃ、別れましょ。今すぐ荷物まとめて出てって」
空気が止まりました。
「……え?」
夫の声が、情けないほど薄く響く。義母は口を半開きにし、親族たちは箸を止めたまま固まる。まるで私が冗談を言ったみたいに。
私は冗談を言っていませんでした。
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