私が妊娠検査薬の陽性反応を見たのは、次男である夫と結婚して一年目の春だった。嬉しさと同時に、胸の奥がざわついたのは、義実家の空気を知っていたからだ。
義実家は昔ながらの家柄を自負し、ことあるごとに「跡取り」という言葉が飛び交う。長男夫婦が同居し、家を守る形。次男の私たちは別居だが、行事ごとには必ず呼び出される。そこには、無言の序列があった。
長男が最優先で、次男は常にその後ろ。私も、自然と息を潜める癖がついていた。
妊娠を報告したのは、義実家の食卓だった。義父は頷き、夫も目を細めた。私は一瞬だけ、受け入れられた気がした。だが、その直後に姑が箸を置き、冷たい声で言った。
「長男にはまだ跡取りがいないのに。次男嫁が先に身ごもるなんて、家の恥よ」
空気が凍った。私は言葉が出なかった。夫が「母さん、何言ってるんだ」と声を上げたが、姑は止まらない。
「今すぐオロせ。順番があるでしょう。長男が先よ」
耳が熱くなり、視界が揺れた。命の話を、家の順番で決めるのか。腹の奥に宿った小さな存在が、急に遠く感じるほど恐ろしくなった。私は震える指を握りしめたまま、ただ黙ってしまった。
すると、姑は勝ったように息を吐いた。
「黙るってことは分かっているのね。賢い子なら従うわ」
その夜、夫は私の手を握り、「絶対に守る」と言った。だが私は、守るべき相手は姑だけではないと悟っていた。義実家の「家の論理」そのものが、私たちの生活を飲み込もうとしている。
数日後、義兄から夫に連絡が入った。珍しく、義兄が私たちの部屋に来るという。
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