結婚式って、みんな笑って泣いて、幸せな空気に包まれてるはずなのに——
あの日だけは、急に空気が変わった。
隣の席の中年の男性が、顔面真っ白。額には冷たい汗。立ち上がろうとして、フラッと崩れそうになった。
俺らはもうパニックだ。
「え?どうする?救急車?誰か呼んだ方がいい?」
声だけが空回りして、心臓がバクバクして、頭が真っ白。
その時——看護師さん。
慌てない。焦らない。声も落ち着いている。
「大丈夫ですよ、少し横になりましょうね」
ネクタイをゆるめて、上着を脱がせて、靴を外して、呼吸の様子を見て、
「気分はどうですか?胸は苦しくない?吐き気ありますか?」
一つ一つ、淡々と確認していく。
見てるこっちは怖くて仕方ないのに、看護師さんの手だけは、不思議なくらい静か。
そして別の日。
姪っ子が、突然ガクンと倒れて、全身がピクピク震えだした。
俺ら、もう叫ぶしかない。
「やばい!救急車!今すぐ!」
でも、看護師さんは違った。
静かに寝かせる。
頭を打たないように周りをどかす。
時計を見る。
毛布をかける。
そして、ただ一言。
「大丈夫。ここにいるからね」
痙攣が止まる。
また時計を見る。
深呼吸を一つしてから、落ち着いた声で言った。
「熱性けいれん。いまは救急車、呼ばなくて大丈夫」
あとで聞いた。
「なんで、あんなに落ち着いてたの?」
「なんで、あの時ずっと時計見てた?」
返ってきた言葉はシンプルだった。
「痙攣の時間を計ってた。5分を超えたら救急車。そこが判断の目安だから」
その瞬間、鳥肌が立った。
職業だから、慣れてるのかもしれない。
でも、命の前であんなに冷静でいられるなんて——
本当にすごい。
俺らは焦る。叫ぶ。パニックになる。
でも、看護師さんは、静かに「今、やるべきこと」だけをやる。
あの“違い”。
一生、忘れない。