昼下がりの店内は、それほど混雑していたわけではなかった。仕事の合間に立ち寄ったような客が数人、レジには静かなやり取りが流れている。俺もまた、買う物を手にレジへ向かい、何の疑いもなく会計を済ませるつもりでいた。合計金額は七千二百円。特に高額というほどでもないが、少額でもない、そんな微妙な金額だった。
店員は慣れた口調で「七千二百円になります」と告げた。
俺は財布の中をちらりと見て、細かいことを考えるのも面倒になり、一万円札を一枚取り出してそのまま差し出した。
「一万円、お預かりします」
ここまでは何の変哲もない。どこの店でもある、ただの会計の流れだった。ところが次の瞬間、その店員が当然のように口にした言葉に、俺は思わず眉をひそめた。
「二千八百円のお返しになります」
その数字を聞いた瞬間、なぜか胸の奥に妙な違和感が走った。二千八百円。頭の中で一瞬計算しようとするものの、疲れていたせいか、感覚だけが先に反応する。何かが足りない。そんな気がしてならなかった。
俺は反射的に口を開いていた。
「は? なんか少なくね?」
店員は一瞬だけ目を丸くしたが、すぐに表情を整えた。
周囲の空気がわずかに変わる。後ろに並ぶ客の視線まで、こちらに向いた気がした。今さら引っ込めるのも妙で、俺はレジの上に置かれたレシートと釣り銭を見比べながら、釈然としない表情を浮かべていた。
一万円を出した。会計は七千二百円。そして返ってきたのは二千八百円。言われてみれば数字は合っているようにも思える。だが、そのときの俺の頭の中では、なぜか「三千円くらい返ってくるはずだ」という曖昧な感覚が強くこびりついていたのである。
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