夕方の満員電車。疲れた体を吊り革に預けながら、私は車内の空気の重さを感じていた。そんな中、目の前の優先席がひとつ空いた。隣には杖を握り、足元がおぼつかない様子のお爺さんが立っている。私は反射的に声をかけた。
「よかったら、ここ座ってください。危ないですから」
お爺さんは少し驚いたように目を丸くし、それから控えめに笑って「ありがとうねえ」と腰を下ろそうとした――その瞬間だった。
奥からスーツ姿のサラリーマンが、まるで狙っていたかのようにすっと踏み出し、お爺さんの肩を乱暴に押し退けた。お爺さんの体がよろけ、杖が床に当たってカン、と乾いた音がする。私は思わず息を飲んだ。サラリーマンは何事もなかったように優先席へ腰を落とし、スマホを取り出して画面をスクロールし始めた。
車内の視線が一斉に集まる。誰もが「今のはないだろ」と思っているのに、言葉にできない。沈黙が広がった、そのとき――側にいた作業着姿のおっちゃんが一歩前に出た。
「おい兄ちゃん、今の見てたぞ。優先席って書いてあるやろ。お爺さん押してまで座る席ちゃうで」
低く響く声に、周囲の乗客が少しだけ顔を上げる。お爺さんは「いいよいいよ」と手を振り、事を荒立てたくない様子で立ち直ろうとしていた。しかし、その優しさを踏みにじるように、サラリーマンは顔を真っ赤にして立ち上がった。
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引用元:https://www.youtube.com/watch?v=p1i9E9aGZ7I,記事の削除・修正依頼などのご相談は、下記のメールアドレスまでお気軽にお問い合わせください。[email protected]