「お金払うから、警察呼ばないで。」
事故直後、息子に向かって相手が最初に言った言葉がそれだった。
「大丈夫?」でもなく、「怪我ない?」でもない。
ただ、“警察を呼ぶな”。
その時点で、もう何かがおかしかった。
相手は落ち着きがなく、自賠責の証書を見せてと言われても出せない。
「家にある」「後で持ってくる」
言葉だけが増えていく。
その後、電話はつながらなくなった。
私は正直、事故よりも頭が真っ白だった。
どうすればいいのか分からない。
でも、なぜか一つだけ思った。
「とりあえず、記録しよう」
震える手で通話を録音した。
やっとつながった電話の向こうで、相手は焦った声で言った。
「保険は…入ってなくて…でも払いますから…」
その瞬間、状況がはっきりした。
すぐに警察へ連絡。
事故は正式に処理され、責任は相手側に確定。
もう“なかったこと”にはできない。
息子は後から言った。
「あの時、言われるままにしそうだった」
私は苦笑いして答えた。
「私も何も分かってなかったよ。ただ、逃げ道を作らせちゃいけないと思っただけ」
怒りでも、知識でもなかった。
ただの不安が、たまたま“正しい行動”につながっただけ。
でも最後に分かったことがある。
困った時ほど、人は“近道”を選びたくなる。
けれど守ってくれるのは、
お金でも口約束でもなく、
記録と手続きとルールだった。
息子に言った。
「覚えておきなさい。
焦った時こそ、正しい道を歩くのよ。」
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