「助けて……誰か、助けて……」
台風が京都を叩きつける夜、古い路地裏のゴミ箱の横で、一人の老婆が倒れていた。雨に打たれた頬は青白く、呼吸は浅い。だが通りすがるスーツの男も、傘を寄せ合う若いカップルも、同じ学校の生徒たちさえも、視線を逸らして足早に去っていく。
“関わると面倒”——その一言が、命を見捨てる免罪符のように路地に漂った。
その光景を、田中美雪は見てしまった。十七歳。貧しく、学校では霊夏たちにいじめられ、昼の弁当さえ床に落とされ笑われる日々。母の治療費で闇金に手を出した父は、赤い「最終通告」の紙を隠していた。美雪は、人生が雨と同じく冷たく重いことを知っている。だからこそ、倒れた老婆の唇の色を見た瞬間、迷いが消えた。
「大丈夫ですか! 聞こえますか!」
返事はない。救急車を呼ぶべきだと頭は理解しても、暴風雨の中で到着が間に合う保証はない。美雪は歯を食いしばり、細い背中で老婆を背負った。濡れた制服が肌に貼りつき、風が体を横殴りに揺さぶる。泥水で足を取られ、膝を擦りむいて血が滲む。それでも止まれない。
背中の体温が、少しずつ奪われていくのが分かったからだ。
「必ず……病院に……連れていきます!」
一キロ先の京都大学病院。たった一キロが、この夜は地獄の距離だった。街灯は折れかけ、横断歩道は川のように水が流れる。美雪は息を切らしながら、最後の力で救急入口の扉を押し開けた。
「助けてください! おばあさんが……!」
医療スタッフが駆け寄り、老婆は処置室へ運ばれる。
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引用元:https://www.youtube.com/watch?v=4BFnKhNie5w,記事の削除・修正依頼などのご相談は、下記のメールアドレスまでお気軽にお問い合わせください。[email protected]