ベトナムでの過酷な単身赴任を終え、一年ぶりに帰国した私を待っていたのは、空っぽの家でした。玄関のドアを開けた瞬間、家の中には何もありませんでした。奮発して買ったソファも、家族で囲んだダイニングテーブルも、大型テレビも、まるで夜逃げでもしたかのように消えていたのです。
妻の弓に尋ねると「古くて趣味が悪かったから全部処分した」とだけ答えました。
私はこの一年間、現地の工場長として深夜まで働き詰め、生活費を切り詰めて毎月百万円を家族のために送り続けてきました。食事は現地の安い屋台で済ませ、隙間風の入るアパートで一人、家族の写真を眺めながら孤独に耐えてきました。合計で千二百万円という大金です。「あんたの居場所がどこかそれで分かるから」。弓はそう言って、義母が同居し始めた部屋を指差しました。
ドアを開けると、そこには豪華にリフォームされた部屋があり、義母のかず子と、定職につかず金の無心を繰り返してきた義弟の浩司が、私の稼いだ金で買われたであろう高級な家具に囲まれてくつろいでいました。浩司の腕には、私が大切にしていた腕時計が光っていました。
その夜私に与えられたのは、冷え切った三畳ほどの狭い部屋。翌朝の食卓には、賞味期限の切れた安いパンだけが用意されていました。
肝心の娘、真ゆみの姿はどこにもありませんでした。「友達の家に泊まっている」と弓は言いましたが、それが嘘だとすぐに分かりました。廊下のゴミ箱には、私が真ゆみに贈ったオルゴールが捨てられていたのです。私はそれを拾い上げ、静かに真実を確かめる決意をしました。
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