53歳で急逝した誠さんの妻・弓さん(仮名)は、夫の死から1ヶ月後、死亡保険金20億円が振り込まれた日に、義母のかず子から「体にいい汁」を勧められた。義妹の友子も横で「お母さんが作ってくれたんだから」とせかす。二人の様子に違和感を覚えた弓さんは、そのお椀を隣に座る友子へと差し出した。
「あなたも最近眠れていないと言っていましたね」。
そう声をかけた瞬間、友子の顔から血の気が引いた。「誰がこんなもの飲むのよ」と友子は激しく拒み、汁がテーブルにこぼれた。栄養のある汁だと言うわりに、あまりにも強い拒絶反応だった。
弓さんはその匂いに覚えがあった。夫が亡くなる数日前に飲んでいたお茶と、全く同じ匂いだったのだ。誠さんは代々続く部品メーカーの社長で、健康そのものだった。突然の急性心不全での死に、弓さんは自分を責め続けていたが、葬儀から2週間後、書斎を片付けていて違和感に気づく。夫がいつも使っていた手帳が見当たらず、ゴミ箱の奥からラベルの剥がれた空き瓶が見つかった。
さらに、誠さんが亡くなってから義母と友子が頻繁に家を訪れるようになり、その目は常に家の中を物色しているようだった。
そして弁護士から20億円という保険金の通知が届いた日、その数字を見た義母の目の色が明らかに変わった。
弓さんは机の引き出しの裏に隠されていた手帳と小さな鍵を見つける。手帳には、亡くなる1ヶ月前から夫が母親の異常な行動を警戒していた記述が残されていた。「最近体がだるい。友子が持ってきた健康茶を飲んでから心臓が痛む」という一文もあった。
そして最後のページには「弓へ、もし僕に何かあったら絶対に母さんの持ってくるものを口にするな。銀行の貸金庫に全ての証拠を残す」と書かれていた。
弓さんはその足で銀行へ向かい、貸金庫を開けた。中には保険金の受取人を弓さん一人に変更する手続き書類、隣町の内科医院で行われた血液検査の結果、そして義母を問い詰める誠さんの録音データが残されていた。
血液検査の結果には「特殊な植物性アルカロイドの微量反応あり」という記載があった。
会社に駆けつけた弓さんは、義母と友子が社長室で会社の通帳や実印を持ち出そうとしている現場に遭遇する。急湯室の茶筒からは白い粉の残るガラス瓶も発見された。弁護士に全ての証拠を託した弓さんは、49日の法要の席で親族全員の前でそれらを突きつけ、義母と友子は警察に連行された。
半年後、弓さんは誠さんの会社の社長として、社員たちと共に会社を立て直している。誠さんが最後に残したメールには「僕の保険金は全て君のものだ。これからは君自身のために笑って生きてほしい」と綴られていた。