離婚届を出した日の夜、私は子どもを抱いて実家の玄関に立っていた。荷物は最低限。肩は凝り、まぶたは熱いのに涙は出なかった。泣くより先に、生活を立て直す計算が頭の中を走っていたからだ。
兄は何も聞かず、ただ一言だけ言った。
「ここにいろ。落ち着くまででいい」
その言葉に、私はようやく呼吸が戻った。
兄の家は郊外の二階建てで、部屋数もそこそこある。私は「迷惑をかけないように、短期間だけ」と思っていた。家賃の一部も入れるつもりだったし、家事も手伝うつもりだった。兄も「気にするな」と言うが、私は甘えるだけのつもりはなかった。
――ところが、問題は“兄の妻”だった。
義妹(兄嫁)の美紀は、私を見るなり笑った。表情は柔らかいのに、目だけが冷たい。
「へえ、離婚したんだ。大変だねぇ」
私は頭を下げ、「しばらくお世話になります。迷惑かけません」と言った。
その翌日、食卓で美紀が突然、箸を置いた。
「ねえ、ルール決めようよ。うちはもともと落ち着いた生活してるから」
兄は「まあね」と曖昧に相槌を打つ。嫌な予感がした。
美紀はにっこり笑いながら、私に言った。
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