兄は医師として忙しく働き、周囲からも信頼されていました。そんな兄の結婚式に招かれた私は、足が悪く、車椅子で参列することになりました。式場のスタッフは丁寧に導線を確保してくれて、私は「迷惑をかけないように」と何度も頭を下げながら、控えめに席へ向かったのです。
ところが、控室の前で新婦――兄嫁になるはずの女性が私を見るなり、笑い混じりに言い放ちました。
「車椅子、邪魔だから帰ってw」
冗談の形をしていましたが、目は笑っていませんでした。周囲の空気が凍り、私の耳だけに“w”の薄っぺらさが残りました。
私は声を荒げませんでした。慣れていたのです。足が不自由だというだけで、気を遣われるより先に“面倒”として扱われる視線に。けれど、今日は兄の晴れの日です。騒ぎにする気はありませんでした。私は静かにうなずき、兄にだけ事実を伝えることにしたのです。
「兄さん、私、帰るね。新婦さんに『車椅子邪魔だから帰って』って言われた」
兄は、最初は意味が分からない顔をしました。しかし私の表情を見て、冗談ではないと悟ったのでしょう。
兄の背筋がすっと伸び、医局で緊急対応をするときの目になりました。
「今、同じことをもう一回言ってみてください」
兄が新婦に向かって、低い声で言いました。新婦は慌てて笑顔を作り、「冗談だよ~、空気読んでって意味」と誤魔化そうとしましたが、兄は一歩も引きません。
「冗談で、人の尊厳を踏みにじる人と、私は人生を組めません」
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