父の葬儀の日のことは、今でも胸の奥に固い塊として残っている。喪服の袖を通し、焼香の順番を待ちながら、私は何度も会場の入口を振り返った。もしかしたら、遅れてでも来てくれるかもしれない。そう思いたかったのだ。
けれど、最後まで旦那の家族は現れなかった。義父も義母も、義姉も。来たのは私の親戚と、父の友人、近所の方々だけ。旦那は最初から曖昧な態度で、結局「仕事がある」と言って途中で帰った。
葬儀が終わり、骨壺を抱えて家に戻った夜。私は台所で湯呑みを洗いながら、震える声で聞いた。
「どうして、あなたの家族は来なかったの?」
旦那は面倒くさそうにスマホから目も上げず、平然と言った。
「血つながってないから。別に関係なくない?」
その言葉で、何かが私の中で静かに折れた。怒鳴る気力も、泣いて訴える気力もなかった。ただ、心の奥に「この家では、私は外の人間なのだ」という結論が沈んだ。
それから数年、私は“波風を立てない妻”を演じて暮らした。義実家の行事には顔を出し、手土産も用意し、笑顔も作った。
けれど、父を見送ったあの日の空白は埋まらない。旦那の「血がつながっていない」という理屈は、私の悲しみだけを切り捨てるために使われた刃だった。
そんなある日、旦那のスマホが鳴った。受話器の向こうで誰かが泣いている気配がして、旦那の顔色が変わった。
「……母さんが、亡くなった」
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