「妊婦なんだから、その席くらい譲ってよ。」
新幹線に乗って席に向かった瞬間、同僚のその一言が飛んできた。
思わず足が止まった。
私が買った指定席は、二人席の通路側。
でもそこには、すでに彼女が大きく座り込んでいた。
しかもただ座っているだけじゃない。
大きなスーツケースが二人の足元の真ん中に横向きに置かれ、
彼女のバッグとコートが、私の座席の半分を占領していた。
私は立ったまま、その光景を見下ろした。
「……そこ、私の席なんだけど。」
そう言うと、彼女は少しも悪びれず、体をさらに深くシートに沈めた。
「だから言ってるじゃん。妊婦なんだから。」
そして笑いながら、手で私の座席を軽く叩いた。
「ちょっと詰めてよ。」
まるで、それが当然みたいに。
正直、驚きはしなかった。
この人は、昔からそういう人だった。
会社に入ってすぐの頃、私が買ったばかりの口紅をポーチから出したときのことを思い出す。
彼女は興味津々でそれを手に取って、鏡も見ずにその場で試した。
「いい色だね。」
そう言って、にこっと笑ったあと、あっさり言った。
「その口紅、いいね。ちょうだい。」
冗談だと思った。
でも彼女は本気だった。
結局、その口紅は私のポーチに戻ってくることはなかった。
それからも、
充電器、文房具、ハンドクリーム、
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