同居を始めてから、長男の嫁――美咲さんは、私を“いないもの”として扱いました。朝、台所で顔を合わせても挨拶はなく、私が「おはようございます」と言っても返事はありません。食卓の皿は私の分だけ微妙に離され、洗濯物は私のものだけ最後まで残される。あからさまではないのに、毎日じわじわと心を削る、あの手の無視です。
私は七十を前にした身で、争いは避けたいと思っていました。
息子が家庭を築いた以上、嫁と良い関係でいたい。そう願って、笑顔を崩さず、必要以上に口を出さず、ただ家を守ってきたのです。
けれど、黙って耐え続けられたのには理由がありました。
この家は、私が払っているからです。
ローンは月十八万円。年金と、亡き夫の遺したわずかな貯え、そして私が続けてきたパートの収入をかき集め、毎月きっちり引き落とされる額でした。息子夫婦は「同居なら家賃が浮くね」と軽く言いましたが、私は“家族だから”と、詳しい話をしませんでした。支払いが誰であれ、家族が穏やかに暮らせるならそれでいい――そう思ってしまったのです。
無視が一年続いたある日、私は居間の押し入れを開けて、言葉を失いました。
いつも入れていたはずの旅行鞄がない。夫の形見のアルバムも、私の冬物のコートも見当たらない。代わりに、空っぽの段ボールと、整えられた棚だけがそこにありました。
「あれ?……なんで私の荷物が」
呟いた声は、情けないほど震えていました。
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