義妹の声は、最初は気のせいだと思っていた。
玄関の鍵を開けた瞬間、家の奥から聞こえたのは、子どもに向けるには鋭すぎる言葉だったからだ。
「ほんと鈍いね。小1でそれ? 恥ずかしくないの?」
「ママに言いつけたら、もっと嫌われるよ?」
私は靴も揃えないまま廊下を進んだ。リビングの扉は少しだけ開いていて、隙間から見えたのは、ソファの端で肩をすくめる娘と、彼女を見下ろしながら笑う義妹の横顔だった。娘の指先が小さく震えている。目を伏せ、泣くのを必死にこらえている。
その光景で、胸の奥が冷えた。怒りというより、身体が先に危険を察知したような感覚だった。
私は扉を押し開け、低い声で言った。
「……何をしてるの?」
義妹は一瞬驚いた顔を作ったが、すぐに肩をすくめた。
「え〜? しつけ。お姉さんの代わりに“教えてあげてた”だけ〜」
娘が私を見て、唇を噛んだ。そこで初めて私は確信した。これは一度や二度ではない。隠れて繰り返されてきたのだ。
私は娘を抱き寄せ、背中を撫でた。
「もう大丈夫。ママがいる」
そして義妹に向き直り、はっきり言い切った。
記事はまだ終了していません。次のページをクリックしてください