夕方の駅構内は、帰宅ラッシュと放課後の学生たちでごった返していた。改札近くの女子トイレ前には長い行列ができ、誰もが無言のまま順番を待っている。時計は18時を回っていた。
列の後方から、小さく震える声が聞こえた。
「もう限界……」
振り返ると、制服姿の女子高生が一人、壁にもたれかかるようにして立っていた。顔色は青白く、額にはうっすらと汗がにじんでいる。
友人らしき姿はなく、彼女は一人で必死に耐えている様子だった。
私は思わず声をかけた。
「大丈夫? かなりつらそうだけど……」
彼女は唇を噛みしめながら小さくうなずいた。
「お腹、痛くて……でも順番だから……」
その様子を見て、私は迷わず言った。
「私の前、空いたら先にどうぞ。」
列は確かに長い。だが、私はそこまで切迫してはいなかった。目の前で限界を迎えそうな人がいるなら、譲るのは当然だと思ったのだ。
ところが、私のすぐ後ろに並んでいた女性が鋭い声を上げた。
「ちょっと待って。順番なんだから、譲るなんてあり得ないでしょ?」
一瞬、空気が凍りつく。
「みんな我慢して並んでるのよ? 一人だけ特別扱いなんて不公平じゃない?」
彼女は腕を組み、はっきりとした口調でそう言い放った。周囲の何人かもこちらを見ているが、誰も口を開かない。
確かに“順番”は公共の秩序だ。しかし、私は静かに答えた。
「もちろん順番は大事です。でも、この子は明らかに体調が悪そうです。緊急性がある場合は、少し配慮してもいいのではないでしょうか。」
女性は納得しない様子で首を振る。
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