「私、10杯も飲みましたっけ?」
居酒屋を出る直前、レシートを見た私は足を止めた。
その夜、注文した飲み物は3杯だけだった。
レモンサワーが800円、ハイボールが750円、ウーロン茶が500円。料理も追加注文もなく、サービス料は0円。
本来の合計は2050円のはずだ。
しかし、カードで決済された金額は1万900円。差額は、なんと8850円もあった。
何度計算しても数字が合わない。友人にも見せると、レシートを見たまま眉をひそめた。
「品名は3つしかないよ。絶対におかしい」
私はすぐにレジへ戻った。
「すみません。この会計を確認していただけますか?」
ところが最初に対応した店員は、レシートを一瞬見ただけで答えた。
「合計がそう表示されていますので」
私は耳を疑った。
機械に表示されたから正しい、という説明では納得できない。
「800円、750円、500円ですよね。足すと2050円です」
そう伝えると、店員は面倒そうな表情を浮かべながら、奥へ入っていった。
数分後、責任者らしいスタッフが現れた。レシートと注文履歴を照合し、レジ画面を何度か操作する。
そして、小さく「あっ」と声を漏らした。
別の会計データが誤って混ざり、合計金額だけが1万900円になっていたという。
「大変申し訳ございません。お客様の会計は2050円です」
先ほどまでの「表示どおり」という説明は、完全に覆った。
店側は1万900円のカード決済をすぐに取り消し、正しい金額で処理し直した。取消票と新しいレシートも受け取り、返金処理の内容まで確認した。
さらに責任者は最初の対応についても謝罪した。
「合計だけで判断せず、最初から明細を確認すべきでした」
間違いは誰にでもある。私が引っかかったのは、ミスそのものより、客の指摘を確認せずに退けようとした態度だった。
もしレシートを見ずに店を出ていたら、8850円を余計に支払ったままだったかもしれない。
帰り道、友人が笑いながら言った。
「3杯しか飲んでいないのに、レシートだけ見たら豪遊だね」
私もようやく笑った。
レジが出した数字でも、必ず正しいとは限らない。
品名、数量、単価、合計。
たった数秒の確認で、8850円を守れることもある。
私は10杯も飲んでいない。
けれど、この1枚のレシートのおかげで、酔っていても会計だけは確認しようと心に決めた。