親友に三百万円を貸したのは、彼が起業直前で資金繰りに詰まり、「必ず返す」と深く頭を下げたからだった。書面も交わした。利息も要らない、ただ彼が立ち直ればそれでいい――そう思っていた。ところが半年も経たないうちに、一本の電話が私の時間を止めた。親友が自ら命を絶ったという。
通夜の席で、私は返済のことなど一言も口にできなかった。
遺影の前で手を合わせながら、心の中では「どうして相談してくれなかった」と何度も繰り返した。けれど現実は冷酷で、残されたのは哀しみだけではない。生活もある。貸した金も、私にとっては簡単に捨てられる額ではなかった。
後日、私は意を決して親友の実家を訪ねた。玄関先に出てきた親友の両親は、私の顔を見るなり目を吊り上げた。
「息子がいなくなっても、なお金を回収しに来る鬼か!」
怒鳴り声が近所に響くほどだった。私は言葉を失い、ただ封筒に入れた借用書の写しを握りしめた。返してほしいのは事実だ。しかし、遺族を追い詰めたいわけではない。
説明しようにも、相手は聞く耳を持たない。
次の瞬間、父親が懐から札束を乱暴に取り出し、私の胸元へ投げつけた。床に散ったのは、十万円。
「これで消えろ。二度と来るな」
屈辱と喪失が同時に押し寄せ、私は封筒を拾いもせず、その場を後にした。
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