七年ぶりに、その人と同じ空間に座った。
銀座の路地裏にある高級寿司屋。暖簾をくぐると、檜の香りと静けさが肌にまとわりつく。カウンターには余計な装飾がなく、職人の手元だけが淡い灯りに浮かんでいた。
私はスーツの袖口を整え、予約名を告げる。通された席の隣に、既に先客がいた。
背筋の伸びた女性。上質なジャケット、控えめなアクセサリー、そして――視線の鋭さだけは、七年前と変わらない。
東大卒の元女上司、相沢(あいざわ)麗子。
かつて私を「高卒のくせに」と嘲り、最後には“能力不足”の名目で切り捨てた張本人だ。
彼女は一瞬だけ私を見つめ、次に口元だけで笑った。
「……まさか、あなた?」
「お久しぶりです」
私は丁寧に頭を下げた。彼女の驚きは、すぐに優越の表情に塗り替えられる。いつもの癖だ。相手を“格付け”して安心する。
「随分、良い店に来るようになったのね。……誰かの奢り?」
その言葉の端に、昔と同じ棘がある。
「仕事の会食です」
私は短く答えた。それ以上は説明しない。説明を欲しがる人ほど、こちらの弱みを探している。
握りが始まり、白身が皿に置かれる。職人の動きは無駄がなく、店内の客も皆、声を抑えている。
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