現金が消え始めたのは、本当に些細な違和感からだった。
最初は、私の勘違いだと思っていた。買い物帰りに財布を開いた時、「あれ、こんなに減っていたかしら」と首をひねる程度だったのだ。だが、それが一度や二度では終わらなかった。千円札が一枚、時には五千円札がなくなっている。金額は絶妙に少なく、すぐには事件と断定しにくい。それがかえって不気味だった。
私は家計簿をつける性格で、財布の中身も大まかには把握している。だからこそ、繰り返される異変に気づいた。夫に相談すると、最初は「使ったのを忘れてるんじゃないか」と言われたが、夫の財布からも同じように現金が減り始めたことで、さすがに笑えなくなった。
しかも、対策をしても意味がなかった。
財布を引き出しの奥にしまっても消える。
金庫に入れても消える。
念のため肌身離さず持ち歩いても、ほんの少し目を離した隙に減っていることがある。
「これ、家の中に誰かいるみたいで気味が悪いな……」
夫のその一言に、背筋がぞくりとした。
もちろん、家に侵入者が住み着いているなど現実的ではない。けれど、説明のつかない現象が続くと、人は最悪の想像をしてしまうものだ。私たちは真剣に悩み、ついに監視カメラを設置することにした。寝室の入口、リビング、そして財布を置くことの多い棚の近く。目立たないように設置し、何が映るのかを見極めることにしたのである。
そして、その夜だった。
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