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あの日の朝。 出勤して間もない時間でした。 まだ若い部下が、少し顔をこわばらせて、私のところに来て言いました。 「なんか、胸が少し苦しいような感じがして…… 今日は休ませてもらって、家で横になってもいいですか?」 声はふつうに出ているし、歩いてもいる。 見た目だけなら、「ちょっと体調が悪いのかな?」という程度。 でも、そのとき…。(続)
2025/12/30

「タクシーで帰ります」と言った部下は、その日のうちに亡くなった

もう10年以上前の話になります。

でも、いまでもふとした瞬間に思い出して、胸がきゅっと苦しくなります。

あの日の朝。

出勤して間もない時間でした。

まだ若い部下が、少し顔をこわばらせて、私のところに来て言いました。

「なんか、胸が少し苦しいような感じがして……

今日は休ませてもらって、家で横になってもいいですか?」

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声はふつうに出ているし、歩いてもいる。

見た目だけなら、「ちょっと体調が悪いのかな?」という程度。

でも、そのとき、私の頭の中には一つの言葉が浮かびました。

――心臓。

胸の違和感=心筋梗塞の前触れ、という話は何度も聞いていました。

だから私は、すぐにこう言いました。

「胸が苦しいなら、今日は帰るんじゃなくて病院。

 私が119番するから、救急車で行こう。」

そう言って、電話を手に取りかけたそのとき、

彼は慌てて手を振って言いました。

「いやいや、そこまでは大げさですよ。

タクシーで家に帰って寝れば大丈夫ですから。

タクシーがつかまらないようなら、すみませんけど、途中まで乗せてってもらえませんか?」

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ここで、私は迷いました。

「これは危ないかもしれない」という“直感”と、

「本人が大丈夫だと言っているから」という“遠慮”。

結局私は、彼の希望を優先してしまいました。

「わかった。じゃあ、途中まで車で送るよ。

 でも、無理は絶対しないこと。おかしかったら、すぐ病院。」

自宅近くまで来ると、彼がこう言いました。

「この先に耳鼻科があるので、そこで降ります。

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