郵便受けを開けた時だった。
請求書や広告に混じって、白い封筒が一通入っていた。
宛名は、
「奥さんへ」
差出人の名前はない。
嫌な予感がした。
玄関へ入り、鍵をかけてから封を開けた。
中に入っていたのは、印刷された一枚の紙だった。
最初の数行を読んだ瞬間、指先が冷たくなった。
「私の友人が迷惑で困っています」
「お宅の旦那にしつこくされ、大変迷惑です」
私はその場で固まった。
夫が女性へしつこくしている?
そんな話は一度も聞いていない。
さらに読み進めると、文章はどんどん乱暴になった。
「お金もないくせに、いい振りをしている」
「首輪でも付けて、人に迷惑をかけないよう管理してください」
「身体が臭いので、きちんと洗ってあげてください」
注意や相談ではない。
ただ夫を傷つけ、私たち夫婦を壊すための文章に見えた。
それでも、胸の奥には小さな疑いが生まれた。
もし、本当に夫が何かしていたら。
私だけが知らなかったら。
匿名なのは、相手が夫を怖がっているからかもしれない。
そう考えた瞬間、怒りの向きが分からなくなった。
夫へ電話をかけようとした。
でも、やめた。
感情のまま問い詰めれば、正しい話まで聞けなくなる。
それに、この手紙が嫌がらせなら、捨ててはいけない。
私は紙をテーブルへ置いた。
封筒の表と裏。
消印。
紙の全体。
文字。
折り目。
届いた日時。
すべて撮影した。
原本は透明な袋へ入れた。
夕方。
夫が帰宅した。
私はいつものように、
「おかえり」
と言えなかった。
夫は私の顔を見るなり、足を止めた。
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