六十五歳の幸子さんは、三十八年間、夫の年尾さんと共に人生を歩んできました。
周囲から見れば、二人は何の問題もない夫婦でした。
年尾さんは真面目で仕事熱心。定年まで会社に勤め上げ、家族を支えてきた立派な夫として、近所でも評判の人でした。
友人からも「幸子さんのご主人は本当にしっかりしているわね」と言われるたび、幸子さんは笑顔で頷いていました。
しかし、その笑顔の奥には、誰にも言えない寂しさが積み重なっていたのです。
幸子さんは、いつからか夫に何かを話すことをやめていました。
悲しかった出来事も、嬉しかったことも、日常の小さな不満も。
話しても最後には必ず「正しい答え」が返ってくるからです。
「それは考え方が悪いんじゃないか」
「もっとこうすればいいだろう」
「だから前にも言ったじゃないか」
年尾さんに悪意はありませんでした。
むしろ、妻のためを思って言っていたのです。
問題を解決してあげたい。
妻を助けてあげたい。
その気持ちは本物でした。
けれど幸子さんが欲しかったのは、解決策ではありませんでした。
ただ一言、「そうだったのか」「それは辛かったね」と、自分の気持ちを受け止めてもらうことだったのです。
しかし、三十八年間の夫婦生活の中で、その小さな願いは少しずつ消えていきました。
そして幸子さん自身も気づかないうちに、「話さない」という習慣を身につけてしまったのです。
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引用元:https://www.youtube.com/watch?v=dp5HlN6h2XU,記事の削除・修正依頼などのご相談は、下記のメールアドレスまでお気軽にお問い合わせください。[email protected]