その日、夫はまるで当然の権利のように言い放った。
「お前が買ったマンションは、俺の親にプレゼントする。逆らったら離婚だ!」
耳を疑った。私は共働きの中で貯金を積み上げ、頭金もローン審査も、すべて自分名義で通した。結婚前から「いつか自分の城を持ちたい」と夢見て、夜遅くまで働き、資格も取り、やっと手に入れた住まいだった。
にもかかわらず、夫はその努力を一切見ようとせず、「家族に尽くせ」と命令口調で押し付けてきたのである。
その瞬間、怒りより先に、冷たい理解が胸を満たした。――この人は、私を“人”ではなく、“都合のいい資産”として扱っている。
私は深呼吸して、静かに答えた。
「分かりました。離婚しましょう」
夫は勝ったつもりで鼻で笑った。
「やっと分かったか。離婚って言われたら、お前は困るだろ。マンションも手放すしかない」
そう言いながら、夫は机の引き出しから離婚届を取り出してきた。まるでいつでも脅せるように準備していたかのような手際だった。私は動揺を見せず、必要事項を淡々と記入し、押印し、提出に必要な形を整えた。
そして、その足で役所へ向かった。窓口で離婚届が受理され、受理印が押された瞬間、胸の奥に溜まっていた重さがすっと抜けた。夫が想定していたのは、「離婚をちらつかせれば私が従う」という筋書きだけ。
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