十九年間、私は東京一の資産家と呼ばれる高橋浩社長のボディガードを務めてきた。
昼も夜もなく、彼のそばに立ち続けた。暴走車から身を投げ出して守ったこともある。海外の路地裏で、彼の代わりに殴られ、肋骨を折ったこともある。倒れた彼を救急処置で救った夜もあった。
数えてみれば、彼の命を救ったのは二十三回。
だから退職の日、私は少なくとも一言くらいは、温かい言葉をもらえると思っていた。
だが、高橋社長はマホガニーの机の向こうで、顔も上げずに薄い封筒を投げた。
「持っていけ」
中に入っていたのは、百ドル札が二枚。日本円にすれば、たった三万円ほどだった。
十九年の忠誠。二十三回の命がけの護衛。その値段が、これだけ。
私は笑うことも怒ることもできず、ただ封筒を握りしめてオフィスを出た。
家に帰ると、妻の美代子は私の顔を見るなり言った。
「退職金、いくら? バッグを買う約束だったわよね」
私は黙って封筒を差し出した。彼女は中身を見た瞬間、顔色を変えた。
「これだけ? 冗談でしょう?」
百ドル札二枚を私の顔に叩きつけ、彼女は叫んだ。
「十九年も命を張って、たったこれ? あなた、どこかにお金を隠してるんじゃないの?」
翌日には義父母まで押しかけてきた。義母は私を見下すように鼻で笑った。
「だから言ったのよ。ボディガードなんて、結局は高級な使用人じゃない」
義弟はさらにひどかった。
「マスコミに売ればいいんだよ。日本一の資産家が、命の恩人に三万円しか渡さなかったって。炎上すれば金を出すだろ」
私は首を横に振った。
「それはしない」
その瞬間、家の中の空気は完全に変わった。
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引用元:https://www.youtube.com/watch?v=zDJBERSdLk0,記事の削除・修正依頼などのご相談は、下記のメールアドレスまでお気軽にお問い合わせください。[email protected]