ホームに入ってきた瞬間、空気が変わる。
流線形の車体が光を受けて輝き、その緑のボディがまるで風そのもののように滑り込む。
E5系新幹線「はやぶさ」。東北の大地を貫く、最速の列車だ。
登場は2011年。あの年、東北の空気が止まった。震災の翌月、E5は初めて走り出す。
人々がまだ不安と喪失の中にいたあの春、この車両は“動くこと”を選んだ。それが、希望のはじまりだった。
最高時速320km。日本の鉄道技術の結晶として生まれたE5。だが、その速さの裏にあるのは、単なる「性能」ではない。
“人と人の距離を、少しでも近づけたい”という祈りだ。
東京と東北。遠いようで、繋がっているようで、どこかまだ隔たりのあったその距離。
E5が走り始めてから、その間を行き交う人々の時間は変わった。
帰省、出張、再会、旅立ち。新幹線の車窓から見える景色の中に、いくつもの人生が乗っている。
車体カラーのエメラルドグリーンには、「希望の光を未来へ」という意味が込められているという。
白とピンクのラインは、冬の雪と、春に咲く桜を象徴している。
それは、東北を象徴する“再生の色”。だから、この列車はどんな時も北へ走る。
10年以上経った今も、E5は止まらない。技術的には新しいモデルが次々と登場している。それでも、“はやぶさ”という名の特急だけはいつまでも変わらず愛され続けている。
なぜか。
それは、E5が「速さ」を超えて、「願い」を運ぶ列車だからだ。
青森へ向かう母子の笑顔。仙台へ帰るサラリーマンの背中。カメラを構える旅行者の瞳。
それぞれが、今日という1日を走っている。そしてそのすべてを、この車両が乗せていく。
車内には静かな時間が流れる。携帯を閉じて、ふと窓の外を見ると、陽の光が雪の上で反射している。
「また行こう」「また会おう」
──その言葉を、E5は今も運んでいる。
なぜE5系新幹線「はやぶさ」は、今も走り続けているのか。
それは、誰かの“明日”を運ぶためだ。
そしてその「明日」がある限り、この緑の列車は止まらない。