平安時代、貴族社会の中で広く愛読された「源氏物語」は、ただの恋愛小説ではありませんでした。紫式部がこの物語を通して描いたのは、単なる美しい恋愛模様ではなく、一条天皇とその時代の政権、そして彼の愛した女性たちの姿でもありました。一条天皇に対しても、紫式部は決して手加減することなく、批判を交えて物語を描き出しました。しかし驚くべきことに、一条天皇は紫式部に対して怒ることなく、むしろ彼女の作品を高く評価し、宮中での流行を後押ししたのです。
「源氏物語」は、冒頭から政治的な色合いが強く、物語の基盤となる一条では、霧壺の更衣と桐壺帝(=一条天皇にあたる)が不適切な恋愛関係を結び、光源氏を誕生させる様子が描かれています。しかし、この恋愛は単なる個人の感情にとどまらず、宮中の女性たちや貴族たちの反感を買い、高貴な秩序を乱すものとされていました。
紫式部は、物語の中で霧壺の更衣を天皇が愛することが如何に宮廷の秩序を崩すものであるかを、他の登場人物を通して痛烈に批判しました。さらに、式部は霧壺の更衣の死をもって物語の第一部を閉じるという、リアリティを追求した展開を選んだのです。
ここで疑問が生まれます。なぜ一条天皇は、自分を批判するかのような内容を含んだ「源氏物語」
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