「退去費用、合計32万8,000円になります」
不動産会社から届いた請求書を見て、私は思わず声を失った。
壁紙も床も、入居したときよりきれいにしたつもりだった。
なのに、なぜこんな金額を請求されるのか。
私は42歳の会社員。
このマンションには6年間住んでいた。
転勤が決まり、退去することになった私は、引っ越しの1週間前から部屋の掃除を始めた。
キッチンの油汚れ。
浴室の水垢。
洗面台の黒ずみ。
せっかくなら、管理会社に褒められるくらいきれいにして返そうと思った。
そこで私が使ったのが、メラミンスポンジだった。
水をつけてこするだけで汚れが落ちる。
浴槽もキッチンの天板も、時間をかけて磨いた。
「これなら完璧ね」
私は満足していた。
ところが、退去立ち会いの日。
担当者が浴室の壁や浴槽を確認したあと、突然手を止めた。
「こちら、少し確認させてください」
担当者はスマホのライトを当て、浴槽の表面を何度も見た。
「この部分、表面のコーティングが傷んでいるようですね」
「え?掃除しただけですよ?」
「研磨作用のあるスポンジを使用されましたか?」
私は正直に答えた。
「はい。メラミンスポンジで丁寧に掃除しました」
担当者は小さくうなずいた。
「実は、素材によってはメラミンスポンジの使用で表面に細かい傷がついたり、コーティングが傷んだりすることがあります」
私はその場で固まった。
さらに数日後、届いた見積書には驚くべき金額が記載されていた。
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