私は佐藤ひかり、契約社員として経理部で働いていた。退職の日、上司の白木部長は周囲に聞こえるように言い放った。「仕事のできない派遣なんて、契約解除で十分だろ」。私は反論せず、最後の日まで引き継ぎ資料を作り続けた。パソコンにも、共有フォルダにも、念のため保存しておいた。白木部長にも手渡そうとしたが、「こんなもの必要ない」と受け取ってすらもらえなかった。
それから半月ほどして、退職した会社の名前で私の携帯が鳴った。社長の菊池さんからだった。「送ってもらった年次決算の数字が、今出ている決算書とまるで違う。一体どういうことか、話を聞かせてもらえないか」。私は退職の日、菊池社長にだけは念のため引き継ぎ資料をメールで送っていた。まさかそれが、こんな形で役に立つとは思っていなかった。
電話の向こうでは、白木部長の怒鳴り声も聞こえていた。「大損害だぞ。あの契約社員が最後に何をやったんだ」。私が担当していたのは仕訳の入力までで、最終確認をしていたのは白木部長本人のはずだった。それなのに、責任はすべて辞めた私に押しつけられようとしていた。
聞けば、今期の決算で売掛金の消し込み処理に大きな漏れが見つかり、貸借対照表も損益計算書も帳尻が合わなくなっていた。銀行からは資金繰りへの疑念を示され、手形の不渡りが現実味を帯びているという。白木部長は、私が最後まで確認していた日までの仕訳には一切の乱れがないことを知らないまま、「辞めた派遣の引き継ぎ不足が原因だ」と社内で言い触らしていたらしい。
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