人通りの消えた古い商店街の片隅で、一人の女性がうずくまっていた。
買い物袋の中身が歩道に散らばり、拾おうと伸ばした手は小刻みに震えている。乱れた髪、疲れ切った表情、着古した服。その姿からは、かつて地元で「天才少女」と呼ばれた面影はどこにも残っていなかった。
「大丈夫ですか?」
声をかけた男は、何も聞かずに散らばった野菜や卵を拾い始めた。
自分の店の家賃すら三ヶ月滞納している男。それでも目の前で困っている人を見過ごすことはできなかった。
女性が顔を上げた瞬間、男は息をのんだ。
そこにいたのは、かつて学年トップの成績で東京大学へ現役合格し、誰もが憧れた同級生、宮崎千穂だった。
そして男の名前は、柚木陸斗。
祖母が始めた老舗コロッケ専門店「コロユズキ」を継いだ三代目店主だった。
陸斗は幼い頃、勉強が大の苦手だった。
テストはいつも赤点。授業で答えを間違えれば、教室中から笑い声が起きた。
「どうして自分だけできないんだろう」
そんな劣等感を抱えていた陸斗にとって、唯一安心できる場所が祖母の厨房だった。
毎朝五時。
古びた照明の下で、祖母から受け継いだクリームコロッケ作りを続ける。
蒸したじゃがいもを潰し、バターで炒めた玉ねぎと濃厚なベシャメルソースを合わせる。一つひとつ形を整え、衣をまとわせ、低温の油へ静かに落とす。
油の中で広がる小さな泡の音。
その作業だけは、誰にも負けない自信があった。
隣では母の幸恵が黙々とキャベツを刻んでいる。
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引用元:https://www.youtube.com/watch?v=SqMYtHln3bM&t=544s,記事の削除・修正依頼などのご相談は、下記のメールアドレスまでお気軽にお問い合わせください。[email protected]