東京駅八重洲口。春の陽気が漂う朝、五十代・六十代を対象にした婚活バスツアーの受付には、少し緊張した表情の男女が集まっていた。
その中で、ひときわ自信満々に立っている男がいた。
名前は塚本徹、六十一歳。
「いやあ、私は大手食品卸の営業を三十五年やっていましてね。初対面の相手でも全然緊張しないんですよ」
受付開始十五分前から、塚本は隣にいた男性参加者へ一方的に話しかけていた。
「取引先の社長さんたちにも、塚本さんと飲むと時間を忘れるってよく言われたものです」
相手の男性は苦笑いを浮かべるだけだった。
まだ名前すら名乗れていない。
しかし、塚本本人は気づいていなかった。
自分の会話が「盛り上げ」ではなく、「相手が入り込む隙のない独演会」になっていることに。
塚本は営業一筋で課長まで昇進した男だった。
仕事では、初対面の取引先でも短時間で懐に入り込み、自分の知識と経験を武器に場を支配してきた。
「話がうまい男」
それが彼自身の最大の武器だと思っていた。
だが、三年前に早期退職してから、彼の人生は少しずつ変わっていった。
退職金として手にした一千四百万円。
それなりの貯えはあった。
しかし、十五年前に離婚した妻や娘とは疎遠になり、スマホの電話帳にはもう連絡先すら残っていなかった。
退職後の最初の月曜日。
いつものように朝九時、無意識にスーツを着た。
玄関のドアノブに手をかけた瞬間、塚本は気づいた。
「自分には、もう行く場所がない」
長年会社という居場所に守られていた男は、そこで初めて孤独を実感した。
それからというもの、近所のスーパーでも店員に話しかけるのが日課になった。
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引用元:https://www.youtube.com/watch?v=OmaG1Ixa_m0&t=26s,記事の削除・修正依頼などのご相談は、下記のメールアドレスまでお気軽にお問い合わせください。[email protected]