同期の葬儀の帰り道、俺は一人で工場の前に立っていた。夜風が冷たく、シャッターの金属がかすかに鳴る。照明の落ちた現場は静まり返っているのに、胸の奥だけが熱かった。
「……最後まで、あいつはモーターの話しかしなかったな」
同期の佐伯は、入社当初からずっと同じ夢を語っていた。小型で高効率、しかも耐久性のあるモーターを作る。大手のように資本はない。
だから、技術で勝つしかない。そう言って、休憩時間にもノートに図面を描き、誰よりも遅くまで試作に付き合った。だが、過労と持病が重なり、彼は突然いなくなった。机の引き出しには、未完成の設計メモと、書きかけの特許草案が残った。
俺はその紙束を握りしめたまま、決めた。ここで終わらせない。佐伯の想いを、形にする。
それからの三か月は、眠った記憶がほとんどない。巻線の材質を変え、磁石配置を微調整し、発熱のピークを潰す。効率曲線は少しずつ上がり、振動は目に見えて減った。失敗してはやり直し、また計測して、また直す。その繰り返しの果てに、ある晩、テスターの数字が一線を越えた。
「……出た」
効率、トルク、耐久試験の結果。
佐伯のメモに書かれていた“理想値”を、現実が追い越した。俺はその場で膝をつき、しばらく動けなかった。涙が出そうで、必死に唇を噛んだ。
特許は会社名義で出願した。発明者欄には俺の名前と、佐伯の名前も並べた。彼がいなければ、この設計は生まれていない。俺がしたのは、彼のバトンを落とさずに走り切っただけだ。
ようやく試作が形になり、俺たちは取引先に提案へ向かった。
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