雨の日ほど、店は静かになる。商店街のアーケードを叩く雨音だけが、古びた看板の下に響いていた。
俺の店は洋食屋だ。昭和の匂いが残る、赤いビロードの椅子と、擦り切れたメニュー表。名物はオムライス――そう言いたいところだが、現実は名物どころか客がいない。材料費は上がり、光熱費も跳ね、近くにはチェーン店ができた。帳簿の赤字はもう何か月も続き、廃業寸前。
店のシャッターを降ろす日を数えるようになっていた。
その日も、昼のピークはとうに過ぎていた。鍋の底に残るデミグラスソースをかき混ぜながら、俺はため息を飲み込んだ。あと少しで閉店の準備だ。そう思ってふと窓の外を見ると、店の前の段差に小さな影があった。
子どもだ。雨に濡れていないのが不思議なくらい、痩せていた。頬はこけ、シャツは大きすぎて肩が落ちている。膝を抱えて座り込む姿は、まるで捨てられた子猫のようだった。
俺は迷った。今の俺に、誰かを助ける余裕があるのか。だが、あの背中を見て見ぬふりをしたら、きっと一生後悔する。そう感じて、エプロンを外し、店の扉を開けた。
「……どうした。雨宿りか?」
子どもはびくりと肩を震わせ、顔を上げた。目だけが異様に大きい。警戒と、空腹と、何か言えない事情が混ざっていた。
「……お店、入っちゃだめ?」
か細い声だった。俺は首を振った。
「いい。中に入れ。温かいもの、食べるか」
子どもは一瞬だけ唇を噛み、黙ってうなずいた。店内に案内すると、彼は椅子に座るのも遠慮するように端に腰掛けた。俺は水を出し、厨房へ戻った。
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