入社して七年。俺は派手さはないが、任された仕事は必ず期限前に仕上げ、トラブルが起きれば最後まで現場に残って火を消してきた。田舎の無名大卒という学歴は、最初から承知の上だ。だからこそ、実績で黙らせるしかないと、歯を食いしばって積み上げてきた。
だが、その努力が紙切れ一枚のように扱われる瞬間は、唐突に訪れた。
きっかけは、部内の定例会議だった。
議題は新規プロジェクトの体制変更。成果が出た部署ほど人員を引き抜かれ、現場は疲弊する。俺は資料を握りしめ、淡々と数字を示しながら、現実的に無理があることを説明した。すると、会議室の上座に座る部長――縁故入社のエリートと噂される男が、鼻で笑った。
「君さ、勘違いしないでくれる? 田舎の無名大なんて、いつでも切れるんだよ。替えはいくらでもいる。会社の方針に口出しする立場じゃない」
乾いた笑いが、数人の口から漏れた。空調の音だけがやけに大きい。俺は一瞬、何を言われたのか理解できなかった。七年分の残業、休日対応、顧客のクレーム処理、炎上案件の深夜対応。その全部が、学歴の一言で切り捨てられた。
怒鳴り返す選択肢もあった。だが、ここで声を荒げたら、俺は「切れて暴れた無名大卒」になる。なら、取るべき行動は一つだった。
俺は資料を揃え、静かに椅子を引いた。
「……では、本日で退職します」
会議室の空気が、凍りついた。部長が目を丸くする。
「は? 冗談だろw ちょっと煽っただけじゃん。社会人なら受け流せよ」
俺は振り返らなかった。
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