「通帳の残高が1,000,000円を超えた瞬間、私は台所の椅子に崩れ落ち、息を吐きました。主婦の真由、結婚八年目。昨年の春、息子の入園準備が重なり、家計簿は赤字の線だらけでした。
一年で100万円を貯められたのは、特別な裏技ではありません。私が“やめた”ことは三つだけです。
一つ目は、見栄の買い物。ママ友の集まりに新しい服、SNSに映える小物――「どう見られるか」を基準にしていた私は、手持ちの服を徹底的に着回し、必要な物は中古で十分だと割り切りました。
二つ目は、惰性の外食とカフェ。スーパー帰りのコンビニラテ、週一のランチ。私は水筒と弁当を持ち、外食は月二回までと決めました。会いたい人がいるなら、家でお茶を淹れて招けばよいのです。
三つ目は、黙って消えるお金。使っていないサブスク、定期便、スマホの買い物アプリ。解約し、通知を切り、買い物はリストのものだけにしました。貯金は給料日に先取りで別口座へ。月8万3千円、淡々と積み上げました。家計の会議を夫と開き、数字を共有しました。
封筒には食費・日用品・予備費と札を分け、残りには触れません。最初の二か月、レジ前で手が震えた夜もあります。それでも数字が増えるたび、胸の重石が外れていきました。
そのたびに笑ったのが、見栄っ張りな友人の由里子です。「主婦が水筒?惨めじゃない?」高級ランチを当然のように選び、ブランドバッグを見せびらかす。投稿はいつも煌びやかで、私の心も一瞬だけ揺れました。
ところが年末、由里子から深夜の電話が来ました。カードが止まり、家賃も払えないと言うのです。借金を夫に隠していたことが露見し、翌月には指輪もバッグも質屋へ。
彼女は実家の狭い部屋に戻り、SNSだけが空しく笑っていました。
息子の寝顔を見ながら、私は明日の献立を考えます。通帳の100万円は贅沢の証ではなく、見栄を捨てて得た静かな自由でした。」