郵便受けの蓋を開けた瞬間、嫌な胸騒ぎがした。薄い封筒が一通、妙に整った字で私の名が書かれている。差出人は――夫。しかも、消印は観光地として有名な南の町だった。
(旅行中のはずよね。しかも“出張”だと言っていたはず……)
私は玄関先で封を切った。紙の擦れる音が、やけに大きく響く。中から落ちてきたのは、写真と書類。
写真には、笑い合う夫と若い女。海を背景に、肩を寄せ合う2ショット。どちらも、こちらを嘲るような顔をしていた。
その下に、離婚届。
「……なんなのよ、これ」
声が震える。怒りなのか、冷えた悲しみなのか、自分でも判別できない。ただ、胃の奥が静かに沈んでいく感覚だけがあった。夫はわざわざ、愛人との証拠を“郵便”で送りつけてきたのだ。電話でもメールでもない。形として残るものを、私の手に握らせるために。
私はソファに座り、しばらく動けなかった。結婚して七年。子どもはいない。共働きで、家計も家事も折半。大きな喧嘩はなかった――少なくとも私は、そう思っていた。
だが写真の笑顔は、私の知らない夫の顔だった。
次の瞬間、胸の奥に熱が灯った。涙ではない。決意の熱だ。
「……出せばいいのね」
離婚届を広げ、必要事項を迷いなく書く。震えは止まっていた。むしろ頭が冴え、指先が軽い。夫の狙いが透けて見えたからだ。私が取り乱して、すがりついて、話し合いを求めて――その間に彼は愛人との新生活を整える。そういう筋書きだったのだろう。
なら、こちらはその一手先を行く。
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引用元:https://www.youtube.com/watch?v=LNT8J8S8iwU,記事の削除・修正依頼などのご相談は、下記のメールアドレスまでお気軽にお問い合わせください。[email protected]