「……結婚は、お断りします」
料理屋の暖簾をくぐり外気に触れた瞬間、胸の奥に溜めていた息が一気に漏れた。私がきっぱり言うと、父は驚いたように口を開けたまま固まっている。
「おい、叶恵。さっきまで和やかに話していたじゃないか。直人――じゃない、秀治さんのどこが不満なんだ!」
私は逆に、父の反応に戦慄した。
――お父さん、本当に気づいていないの?
てっきり、あの男の正体を見抜いているものだと思っていたのに。
私は金井叶恵、二十四歳。どこにでもいる普通の会社員で、実家で両親と三人暮らしだ。父は製薬会社勤めで、若い頃は病院を回っていたが、今は管理職寄りになり接待ゴルフに顔を出すことが増えた。母は専業主婦で、家のことを丁寧に守っている。
先週、父はゴルフの席で私立病院の院長と意気投合し、妙な話が持ち上がった。院長には四十四歳の次男・秀治がいて、まだ結婚していないという。医師一族の次男だが、本人は医師ではなく自宅でゲーム開発の仕事をしているらしい。
「お互いの子どもをお見合いさせてみよう」
院長の提案に、父は最初こそ「親子ほど年が離れている」と断ろうとした。しかし院長は引かない。「大人になれば年の差は関係ない」と押し切り、父が根負けしてしまった。私は会うだけでいい、という言葉に渋々うなずいたが、本当は気が進まない理由があった。
――ここ一年ほど、私は不審者に付きまとわれていた。
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引用元:https://www.youtube.com/watch?v=W2JISHz9zgI,記事の削除・修正依頼などのご相談は、下記のメールアドレスまでお気軽にお問い合わせください。[email protected]