娘が里帰り出産で戻ってきたのは、予定日の2週間前だった。
「産後1か月くらい、お世話になってもいい?」
娘にそう頼まれた時、私は迷わず「もちろん」と答えた。
初孫に会えるのも嬉しかったし、出産後くらいは娘をゆっくり休ませてあげたかった。
70代の夫も、
「今だけなんだから、できることはしてやろう」
と笑っていた。
ところが、出産から1か月が過ぎても、娘は帰る気配を見せなかった。
それどころか、娘の夫まで毎日のように泊まるようになり、いつの間にか完全に一緒に暮らし始めていた。
「自宅に帰らなくて大丈夫なの?」
私が尋ねると、娘は赤ちゃんを抱いたまま軽く笑った。
「だってこっちの方が楽なんだもん」
その言葉に、私は少し引っかかった。
確かに娘夫婦にとっては楽だったと思う。
朝食を作るのは私。
昼食も夕食も私。
娘婿のワイシャツまで洗濯機に入っている。
赤ちゃんが泣けば、
「お母さん、ちょっと抱っこしてて」
「昨日あまり寝てないからお願い」
そう言って娘は私に預ける。
夜中の2時、3時。
泣き声が続けば、先に起きるのは私と夫だった。
娘夫婦の部屋を覗くと、2人とも眠っていることさえあった。
私は赤ちゃんを抱いて廊下を歩き続けた。
夫もミルクを作り、哺乳瓶を洗った。
最初の1か月なら、それでも耐えられた。
でも2か月。
そして3か月。
夫の顔から明らかに疲れが消えなくなった。
ある夜、夫が腰を押さえながらソファに座った。
「俺たちが先に倒れるぞ」
その声に、私は返事ができなかった。
夫は70代。
私だって若くない。
娘を助けるつもりが、いつの間にか娘夫婦の生活そのものを背負っていた。
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